たぬきです。
今月22日に迫った「M-1グランプリ2019」ですが、決勝進出メンバーも発表されて、いよいよ盛り上がってきましたね。(決勝進出者の一覧はこちら)
今年はどの芸人がビッグな夢を掴むのか、想像するだけでワクワクしてきます。
ちなみに少し前に、ナイツ塙さんの著書『言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか』を読みました。
芸人が書いたお笑い論としてかなり質の高い本です。これはもしかしたら、今年のM-1をより楽しむための必読書なのでは。
というわけで、今のタイミングで手に取る人が少しでも増えたらいいなと思い、感想を書くことにします。
優勝できなかった塙さんの有益すぎる「言い訳」

(引用:漫才協会HP)
『言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか』は、2001年に始まった「M-1グランプリ」の、出場者や審査基準について徹底的に分析した本です。
しかし書いているナイツの塙さん自身は、一度も「M-1グランプリ」で優勝した経験はありません。3回決勝に進出しましたが、ついに頂点には手が届きませんでした。
だから、この本は『言い訳』なのです。エピローグにはこう書かれています。
この本は、ぶっちゃけ、言い訳です。ナイツがM-1で優勝していたら、何を言ってもカッコいいのですが、そうではない。お前が偉そうに何を言っているんだという話です。
もっと言えば、負け惜しみです。青春時代、恋焦がれたM-1に振られた男が腹いせで本を書いているくらいに思っていただければ幸いです。
では、言い訳を始めます。
(引用:『言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか』P20)
塙さんは「ナイツはなぜM-1で勝てなかったのか」ということを、ずっと考えてきたのだと思います。相当、悔しかったんでしょうね。
そんな塙さんが過去の優勝者のネタや、審査員の発言・点数などを分析した内容が、詳細に書かれているのがこの本です。
以下、塙さんの「言い訳」の一部です。
- M-1は「しゃべくり漫才」の方が有利
- 「しゃべくり漫才」は方言を操る関西芸人の方が有利
- 吉本が主催する大会なのだから非吉本芸人は不利
- 「ストーリー」を感じさせる初出場や敗者復活が有利
- M-1は「新鮮さ」を重視する傾向にあるので出れば出るほど不利
これらは、歴代の優勝者や審査員の言動を分析した末に、塙さんが導き出した推論です。実際に出場し、間近で大会を見てきた塙さんだからこそ、すごく説得力がありますよね。
もし私がM-1出場を控えた芸人だったとして、こんなすごい本を手にしたら興奮します。隅から隅まで何度も読み返して、先輩の経験に学ぶと思います。
ましてや塙さんは昨年の審査員ですからね。今年も審査員を務めるかもしれない人が、「私はこういう基準で審査します」と宣言しているようなものです。
きっと今年の出場芸人の大半が、この有益すぎる『言い訳』を読んでいるんじゃないでしょうか。
塙さんが霜降り明星を選んだ理由

(引用:エンタメウォッチング)
2018年、決勝戦2本目に進んだ3組のうち、和牛と霜降り明星でパックリ票が割れ、なんと1票差で霜降り明星が勝利しました。誰か一人でも和牛に入れていたら、結果は大きく変わっていたわけですね。
塙さんは、霜降り明星に入れました。
和牛は3大会連続で決勝に勝ち進んでいる実力派のコンビ。一方で霜降り明星は出てきて間もない若手です。
どうして、霜降り明星が選ばれたのか。『言い訳』には、その理由もいくつか書いてあります。
なぜ、霜降り明星を選んだのか、発想力で言えばジャルジャル、うまさで言えば和牛の方が格段に上です。でも、霜降り明星には、上手い下手だけでは語れない、芸人としての強さがありました。
(引用:同著 P12)
プロローグで、霜降り明星には「強さ」があったと書きました。
霜降りが発する強さは、お客さんに笑ってもらいたい、お客さんに幸せになってもらいたいという気持ちにあったんだと思います。
(引用:同著 P177)
そもそも、僕はウケたいから芸人になったのですから。
霜降りはそのことを思い出させてくれました。彼らは、お客さんに喜んでほしいという思いが体全体から溢れ出ていました。
僕は、そこに心を打たれたのです。感動したと言ってもいい。霜降りを選ばせた最大の理由は、そこでした。
(引用:同著 P183)
(せいやが学生時代いじめられていたことや、霜降りが高校時代から漫才をしていたことに対して)そのあたりの過去や経歴が僕とかぶるのです。
(中略)
自分と似ていて、でも、彼らは僕ができなかったことをやってのけた。こいつら、すげぇなと思いました。そして、心からよかったな、と。
(引用:同著 P183)
こうして霜降り明星に関する記述を見ていくと、塙さんが若手である霜降り明星の活躍にかなり希望を感じたことがわかります。
もしかしたら、審査員として霜降り明星の優勝に関われたことで、長年抱えていた悔しさから解放されたのかもしれません。
ちなみに塙さんは本の中で、若手トリオの四千頭身についても触れています。
まだ知名度はそれほど高くありませんが、東京に四千頭身という面白い三人組がいます。はっきり言って、下手くそです。でも、下手だけど、何か面白くなりそうな雰囲気を持っています。僕らの時代がそうであったように、M-1はそういう芸人を評価する大会であってほしいんですよね。
(引用:同著 P177)
この文章からも、塙さんが若手世代へ向ける期待が伝わってきます。なんだか優しくて、ちょっと感動しちゃいますね。
四千頭身は今年、惜しくも準決勝で敗退してしまいましたが、まだ敗者復活があります。敗者復活がダメでも、来年があります。塙さんと一緒に期待したいと思います。
この本に込められた本当の想いとは

(引用:ライブドアニュース)
『言い訳』とタイトルがついていますが、塙さんがこの本を書いた本当の目的は、弁明や負け惜しみではありません。
たぶん塙さんの性格的に、大々的に打ち出すことはしなかったんだと思いますが、『言い訳』は「これからM-1に挑戦する若手のために書かれた本」です。
塙さんが優勝したいという熱い想いや、優勝できなかった悔しさから、必死に調べ上げた「M-1の傾向と対策」。それを、かつての自分と同じく情熱をもってM-1と向き合っている後輩に、託したいんだと思います。
本編最後の一文を読めば、疑いようもありません。気になる人は、ぜひ読んでみてください。
読んでおけばきっとM-1がさらに楽しい!

(引用:M-1グランプリ公式twitter)
この本はかなり話題になり、「アメトーーク!」や「ゴッドタン」のお笑いを語る企画に塙さんが呼ばれるきっかけになりました。
前述した通り、たぶんM-1出場者の大半はこの本に目を通しているし、もしかしたら審査員も読んでいるかもしれません。
なぜならこの塙さんの本は、受験生にとっての過去問題集くらい、有益な情報源だからです。
となると、我々視聴者もぜひ読んでおきたいところですよね。
塙さんが本で書いているのに「自虐ネタをやる」コンビがいるかどうか。塙さんが本で書いている「つかみを早く」をみんな実践するかどうか。
この本を読むだけで、M-1を視聴する際の解像度がグッと上がると思います。お笑い好きは必読です!