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映画『閉鎖病棟 それぞれの朝』感想/再び前を向いて歩き出す

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(トップ画像引用:映画.com『閉鎖病棟 それぞれの朝』

たぬきです。

11月1日公開の映画『閉鎖病棟 それぞれの朝』を見ました。

メインキャストは綾野剛さん・小松菜奈さん・笑福亭鶴瓶さん。原作は、1995年に山本周五郎賞を受賞した帚木蓬生(ははきぎ ほうせい)『閉鎖病棟』です。

良い作品でした。

3人の「社会に居場所のない人たち」が、再び前を向いて歩きだすまでを描いています。現代日本を生きる人々が抱える「生きづらさ」が、彼ら3人の姿に映し出されていたように感じました。

それぞれの登場人物を回想しながら、感想を書いていきます。

※映画のネタバレがあります※

チュウさん(綾野剛)

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(引用:映画.com『閉鎖病棟 それぞれの朝』

1人目は、綾野剛さんが演じる「チュウさん」というキャラクターです。突然襲ってくる幻聴に悩まされ、パニック発作を起こしてしまうこともあるので、自らの意思で入院しています。

妹夫婦が彼のことをあからさまに「頭がおかしい人」として扱い、容赦ない言葉をぶつけるシーンは、心が痛みました。チュウさんは社会生活を送る自信をなくしてしまい、諦めの中で病棟暮らしを続けているのです。

しかし物語終盤、慕っていた秀丸の行動や、看護師の伊波の言葉に背中を押され、思いきって退院します。家族と一緒に暮らし、ちゃんとした服を着て、職場で信頼を積み重ねていく……といういわゆる「ふつう」の生活を送れることが、どれだけすごいことなのか、実感させられるエピソードです。

由紀(小松菜奈)

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(引用:映画.com『閉鎖病棟 それぞれの朝』

2人目は、小松菜奈さんが演じる高校生の「由紀」です。義理の父親による性的虐待で妊娠し不登校になりますが、事情を知らない母親に無理やり精神病棟へ連れてこられます。

秀丸やチュウさんとの交流の中で、徐々に明るさを取り戻していた彼女が、またもやレイプされてしまう救いのない展開は、見るのがつらかったです。

よくレイプ被害者に「誘うような格好をしていたんだろう」とか「勘違いさせる行動をとったんだろう」というような心ない言葉が浴びせられますよね。

でも由紀は、何もしていなくても若い女性であるというだけで、理不尽につけ狙われます。一方で彼女の言葉を信じたり尊重したりする人間は少なく、助けを求めることすら叶いません。

改めて「若い女性」がどんな脅威の中で生きているか、普段どんな目で見られているのかを考えさせられるキャラクターでした。

由紀は自分によくしてくれた秀丸を助けるために、二度と思い出したくないようなつらい経験を、必死に耐えながら公衆の面前で語ります。その時、彼女が性的に消費するような目を向けられたり、セカンドレイプされるようなシーンがなくてホッとしました。

話を聞いている登場人物は皆、つらそうに目をふせたり、共感して涙を流していました。ちゃんと「この告白はつらいことなのだ」ということを作り手が理解しているからこそ、すごく感動的なシーンになっていたんだと思います。

「女性だから」という理由で搾取された挙げ句、社会に居場所がなくなってしまった由紀。彼女のような人の苦しみも取り上げてくれる映画だということが、すごく嬉しかったです。

秀丸さん(笑福亭鶴瓶)

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(引用:映画.com『閉鎖病棟 それぞれの朝』

3人目は、鶴瓶さんが演じる元死刑囚の「秀丸さん」です。死刑執行の失敗により生き延びた後は、あちこちの精神病院をたらい回しにされています。

かつて母と妻を殺して死刑になった秀丸さんは、チュウさんや由紀以外の患者やスタッフからも慕われている好人物です。しかし、由紀をレイプした男を刺し殺してしまい、再び罪に問われることになります。

一度死んだ命……と何もかも諦めて、早く殺してくれとすら考えていた秀丸さん。しかし、チュウさんや由紀が自分のために必死に紡いだ言葉に心動かされて、再び前を向く決心をするのです。

もしも秀丸さんの死刑が問題なく遂行されて、チュウさんや由紀と出会っていなければ、二人はまだ世の中に絶望したままだったかもしれません。助けた二人に背中を押されて、もう一度自分の人生を生きなおそうとする秀丸さんの姿は、希望や勇気を与えてくれます。

そして、否応なく死刑制度の是非を考えさせられますよね。

死刑を廃止している国も多い中、日本ではまだ制度が維持されています。偶然にも生き残った秀丸さんには、再び立ち上がるチャンスがありますが、死刑で命を奪われる人には更生の機会は二度と与えられません。

私はまだ、自分のスタンスについてはっきり決められていません。でもこの映画を見て、今一度自分が死刑制度についてどう思っているのか、見つめなおしてみようと思いました。

原作との相違点

(引用:映画.com『閉鎖病棟 それぞれの朝』

チュウさんは、原作と比べて、一番大きく設定の変わったキャラクターだと思います。

綾野剛さんが演じているので、映画のチュウさんはきっと30代くらいですよね。私は原作は読んでいないのですが、この記事によると、原作のチュウさんは恐らく40~50代くらいだと思われます。

また、小松菜奈さんが演じた由紀は、原作では中学生という設定になっています。

キャスティングの都合などもあるとは思いますが、この年齢変更が結果的に「現代らしい配慮」につながったのではないでしょうか。

たとえば、原作のチュウさんは「由紀の外見に好意を抱いている」(こちらの記事参照)ようですが、50代の男性から女子中学生への好意を、「純粋な好意」と定義するのは、問題があると思います。

映画では、由紀の年齢を上げることでエグみを少し緩和し、さらにチュウさんが由紀へ向ける視線もかなりマイルドにしてます。性的な興味を抱いてるようには見えないようにしてると思います。(同じく小松菜奈さんが高校生を演じた『恋は雨上がりのように』は、性的な興味を抱いてるように見えちゃってました)

日本では未だ女子中学生・高校生を、堂々と性的に見つめてもいいと思っている人が目立ちます。でも、未成年なんです。まだ、大人じゃないんです。

「女子中学生の見た目の美しさに性的な価値がある」というような、誤った価値観を維持しないために、変えるべきところを変えているな、という印象を持ちました。

それから、由紀が18歳だったのには、もう1つ意味があると思ってます。それは、法廷に立たせるときまでに、成人させられる年齢だということ。

自らの性被害を公の場で語ることは、前述の通りとても辛いことです。たとえ証言のためであっても、その役目を強いるべきではないし、未成年なら尚更守られるべきです。

是枝裕和監督の映画『三度目の殺人』でも、広瀬すずさん演じる少女に性被害について語らせないために、役所広司さん演じる容疑者が、証言を変える展開がありました。

『閉鎖病棟』はその一線を守るために、由紀が成人してから法廷に立たせたのかなと思いました。

あとは、チュウさんを30代にしたことで、現代を生きる若者たちが共感しやすくなる効果もあったと思います。

映画『閉鎖病棟』おすすめです

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(引用:映画.com『閉鎖病棟 それぞれの朝』

この映画に関して、小松菜奈さんが以下のようなコメントを出しています。

今回、私が演じているのは、自分ならば決して耐えられない程の壮絶な過去を背負いながら、強い覚悟で生きていく少女の役です。(引用:CINRA.NET

メインの出演者3人はそれぞれ重い覚悟と誠実さをもってこの役に取り組んだんだと思います。他の出演者たちも実力者揃いです。

観賞後、かなりズーンと重い気持ちになりましたが、その分勇気ももらえる作品でした。